「たっちん、25m泳ぎきったね。ありがとう。」

「うーちゃんの訓練のおかげだよ。」

そして、2人で夕暮れの道を歩きながら うーちゃんは本当に不思議な話をはじめたのです。

「実は、ぼくはね、2022年3月 ヨーロッパにあるウクライナっていう国から、日本の小学5年生になってタイムスリップしてきたんだ。中身は22歳のウクライナ軍の兵士なんだ。」

「ぼくのいる2022年3月のウクライナで、残念ながら核戦争が起こってしまって。 もう、未来はめちゃくちゃなんだ。  それで、僕とは違うウクライナ軍の兵士が2045年へタイムスリップして、スーパーコンピュータでどうすれば2022年3月の核戦争を回避できるのかを徹底的に調べることになったんだ。

それで出てきた答えが、

1987年9月 たっちんが水泳の測定会で25mを泳ぎ切ると、2022年3月のウクライナでの核戦争が回避できる可能性がもっとも高くなる。

っていうものだったんだ。

信じられないかもしれないけど。

2022年3月の核戦争回避のためには、

1987年9月にたっちんが25m泳ぎ切ること。

これが2045年のスーパーコンピュータの出した答えなんだ。」

バタフライ効果。

南半球の蝶の1回の羽ばたきが、北半球で竜巻を引き起こす。

「本当は、話したらダメなんだけど。 話すと 僕の存在は消えてしまうけど。 核戦争の未来は、本当に悲惨だから。」

「たっちん、9月の測定会 25m泳ぎ切ってね。頼んだよ!」 

と言って、うーちゃんは走って帰っていった。

ぼくはうーちゃんの背中が見えなくなるまで ずっと見ていた。 そして、それが僕が見た最後のうーちゃんになった。